みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
涙を流して安堵し合う姿に私がひとりもらい泣きしていると、小さな溜め息が聞こえた。
「ていうより、伽耶。
まず自分が重体と重傷の聞き間違いして心配かけたことを報告しろって」
いつの間にか立ち上がっていた男性が、呆れたようにあっさりと2人を引き剥がす。
若干の苛立ちを含んでいたものの、それ以上に彼の告げた事実に目を丸くする私。
「え!?本当ですか!?」と、同様に驚いていた楓の声は店内に異質なものとして響く。
「ああ大丈夫。さっき信耶さんの勤める会社から連絡入ったんだ。
車で移動中に追突事故に遭って搬送先の病院で検査中だけど、意識ははっきりしていて命に別条ないって」
「よか、った。ありがとうございます」
「いや、俺らもホント安心したよ」
彼を安心させるように穏やかな声で答えた直後、今度はあたたかい眼差しが私へと向けられる。
「えーと、ごめんね。君は……?」
「あ、すみません。私、信耶さんと楓の友人で、間宮朱音と申します」
失念していたと慌てて頭を下げれば、小さく笑って首を振ってくれるその男性。
「了解、間宮さんね。俺は煌でいいよ。一応ここのオーナーだから安心してね。
仕事放って来たんじゃない?本当にごめんね」
「いいえ、どうぞお気になさらず」
「優しいね。ありがとう」
人懐っこいその微笑から、ここは女性客が多いだろうとすぐに判断がついた。