みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
「で、伽耶。2人にお詫びしようよ?」
そこでワイルドさを秘めた煌さんと、泣き顔に不機嫌さも覗かる伽耶さんが向き合った。
「じゃあ、煌ちゃんだって!
突然、か、いしゃっから電話が入って……、お、お兄ちゃっが、事故って、い、われたらっ、れっ、冷静でいられる!?
わた、わたし、の……大好きなっ」
「ああー、わかった。俺の言い方が悪かったな、ごめんごめん。伽耶は悪くない」
泣きじゃくる伽耶さんをかき抱き、頭をポンポンとあやすように撫でている彼。
「にっ、2回も言わないでよっ!」
「あー……ごめん伽耶。でもな、俺だって心配だったんだよ。
俺にとっても大事なお兄さんだから」
「――煌ちゃっ」
シャツにしがみつく伽耶さんを離すまい、と彼女の小さな身体を抱き寄せた。
愛想の良い男って大概、嘘っぱち男のように裏がある。だが、煌さんからは不思議とそれが感じられない。
――如何に私が最近関係してきた人たちが性悪であったか、を示してもいるから純粋に羨ましくなる。
誰がどう見ても、まごうことなく愛し合う姿そのものだもの……。
「……帰ろっか」
「ん、」
ほのかに目の赤い楓の申し出に頷く。すると、前方で申し訳なさそうに微笑む煌さんと目が合った。
伽耶さんはきっと泣くのを我慢していたのだろう。私たちは小さく頭を下げ、静かにお店をあとにした。