みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


日中の暑さを感じながらアスファルトをふたり並んで、無言のまま歩いて行く。


ビルの間をぬって届く陽はジリジリと容赦なく肌をさし、平日であることも忘れそうになる。


雲ひとつない晴天を見つめたものの結局その眩しさに目を細め、一瞥しただけだった。


「もう分かってると思うけど。あの人たちが連絡くれた信耶の妹の伽耶ちゃんと彼氏の煌さんね」

すると1kmほど歩いたところで、重苦しい空気を遮った楓。隣を歩きながら、私は反射的にひとつ頷いてみせた。


そこで視線を感じた刹那、彼の表情にフッと陰りが差しはじめる。


「信耶さあ……、俺とのことカミングアウトしてから、親さんと絶縁状態なんだ」

「え?」と反応した私に、小さく笑った楓の顔は堪えようのない悲しさを孕んでいた。


「あいつんとこの実家……、実は地方の結構な名士なんだよ。
ずっと跡継げって言われる度、何だかんだで交わしてたらしいけど。
半年くらい前かな?見合いの日取り時を勝手に決められた時、ついに信耶がキレて……その時に言ったって」

「……うそ」と、事態を呑み込めないゆえの言葉が漏れてしまう。


「ホントのホント。ここでウソ言うかっつーの」

いつものように茶化せるくらいには落ち着いているらしい。そうして真っ直ぐな瞳は、仰ぐように空を見つめた。


「信耶さ、話にならねえから親父さんに縁切り宣言したって、地元から帰って来たその日に、俺に言ったんだよ」

初めて聞く事実に呆然とする私に対し、“気にすんな”と気遣いをみせて笑うデカわんこが痛々しい。


< 190 / 255 >

この作品をシェア

pagetop