みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
密室で私は操作のために角スペースに身を置いていたものの、その顔の両脇すれすれで壁に手をつかれた現在。
距離にして30センチほどに縮められた彼の詰問に、メガネと平常心を武器に立ち向かっている。
「俺、レスポンス悪いの嫌いなんだよね」
「存じております」
彼の今のプライベートを知らないけど…、勤務中の社長としては外見の柔和さから想像もつかないほど手厳しい。
たとえばこの社長が、社内の管理ポストの者へ一斉に報告要求メールを送った際。
受け取った者は、たとえどこに居ようとも30分以内のレスが義務づけられている。
もし返信し損ねた者や返信内容に不備のあった者は、昇進の道は閉ざされたと言っても過言ではないらしい。
自分の部署の現状をどれほど正確に報告出来るかを、推し量るためのテストでもあると噂で聞いた。
時間制限ある厳しいレスを要求するものの、幹部社員からのメール内容を社長はすべて把握しているとも…。
「じゃあ、喰われるつもり?
たった数時間で、先輩のプライベートの番号ゲットして」
「とんでもございません」
本来ならば車内の移動時間も通信機器で連絡を取っている時間のため、今日の車中は珍しいと言うべきだった。
それを控えていたイコール次の仕事のみ集中していたということ。
だからこそ、大事なビジネスの邪魔をしたと言いたいのだろう。彼の瞳の色が切なく映ったのは、紛れもなく私の私的感情のせいだ…。