みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
最初から“身代わり”だと割り切っていたのに。本当のところは、あかねさんの代わりにすぎなかった。
社長がようやく幸せになれると分かったのに、今はこんなにも打ちのめされている自分がいる。
結局はイミテーションが逃げるよりも早く、愛する人のために動いていた彼に心がどうしようもなく痛い。
いずれ終わりがくると最初から覚悟していたクセに、じつに情けないものだ。
資料室に着くまでは我慢するつもりが、堰を切ったように流れる涙をもう止められなかった……。
泣きながら資料整理を始めて2時間後。定時を迎えた私は、内線でチーフと秘書室に連絡を入れたのち退社する。
人に顔向け出来ない出目金顔をしており、逃げるようにエレベーターに乗り込んだ。
だが、ここでも楓との噂を知った人々からの好奇な視線に晒される羽目に。ひどい顔を見られるわけにはいかず、俯き加減で無言を貫く私。
地上に到着するまでの間、平常心の間宮は何処へ行ったのかと何度も自問自答する。
これまで通り地味に生きたいのに、このところ相反する行動ばかりしてきた。
そのせいか、今の私は痛みや拒絶に弱くなっている。それほど社長に心捉われている自分も怖い。
会社を逃げるように出た私は帰宅ラッシュの電車にガタゴトと揺られ、重い足取りで自宅へ着いたのは19時を回った頃。
よろよろと疲れた身でバスルームへ向かい、スーツとメガネを取り去る。そのままシャワーのコルクをひねり、頭から一気に熱いお湯を浴びた。
容赦なく肌を打つ水流の中、メイク落としオイルを顔にくるくる馴染ませるとほぼ取れかけのメイクとオサラバ出来た。