みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
溜め息をひとつ落とすと、静寂に包まれた室内にスマホの着信音が鳴り響く。手にとって画面を見れば今しがたメールを送った楓からだ。
“末締めに追われてる。さっき信耶本人から電話あって、骨折と打撲だから暫く飛行機は乗れないみたい。
暫く帰れないけど心配するなって。だからメドがついたら俺も休み貰って行ってくる。
ていうか、こっちの心配するとかアイツらしいよね”
「……よかっ、た」
口から漏れた本音とともに、身体の力まで抜けていく。大丈夫か尋ねた私の方が、楓らしい文面に励まされていた。
もちろん、信ちゃんは凄く無理していると思う。それでも話せる状態と知れて、心の底からホッとした。
彼の優しさを重々承知した楓だって、今すぐ会いたいのを我慢して必死に仕事をしているだろう。これは2人が互いを思うゆえの結果だから、私はそれを見守ることしか出来ない。
信ちゃんのPCアドレスへお見舞いメールを送り、その次に晴に事の次第をメールで報告した。
仕事中の彼女からは明日の昼ごろに電話が入るだろう。すべてを終えると電源もOFFにした。
片時も電源を切らさなかったスマホ。でも、傍らに社長の連絡を密かに期待して待つことはもうないから……。
「なーにやってるんだろ」
焼酎が半分入ったタンブラーを片手に、今ごろ自分の体たらくさを嘆く。
真っ白な天井を見つめるのにも飽き、ご飯もそこそこに終えた私は棚からあるものを取り出した。