みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
洋服はライトグレーのシンプルなスーツに、落ち着いたベージュ色の9センチパンプス。
出かける直前に、玄関にインテリアのように置いてある愛用フレグランスを手にし、シュッとひと浴び。
すると嫌味のないフローラル調の香りが立ち、自分の背を押してくれる大切なツールだ。
深呼吸してバッグを持つと、いつもより早くマンションを後にした。
地上を呼び覚ますような朝のひかりを背に、私はカツカツと軽快なヒール音を鳴らして歩く。
駅に到着すれば時間の早さゆえか比較的、空いた電車に乗ることが出来た。
もちろん座ることは出来たが、なんとなくドア近くの手すりを握ってしまう。
ガタゴトと動き始めた電車に揺られながら、移ろいゆくビル群を惰性で見つめる。
この景色を見るようになって、もう2年が経つ。振り返ってみると、社会人としての2年という歳月はあまりに早く過ぎた。
辛かっただけではないし、悲しいことばかりでもない。だからこそ、惜しいと感じてしまうのだろうか。