みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
逢瀬、辞する。
――なぜ最後と思うと、いつもと同じ景色さえも寂しさを助長するのだろう?
会社の最寄り駅で停車した電車を降ると、改札をくぐり抜けた。
そして出勤ラッシュには少し早い、まだ人通りもまばらなオフィス街へと溶け込む。
コツコツとアスファルトを叩くように歩けば、今日もヒール音がテンポ良く鳴る。
緑の木々生い茂るプロムナードを越えると、眩しい日差しに思わず目を細めた。
歩き始めてから数分後、ようやく見えたのが通い慣れたChain社の自社ビルだ。
少しばかり視線を上げても最上階を捉えられない高さに、今さら小さく笑みが零れてしまう。
たったの2年。――されども、あまりに濃密な時間が思い出と化して脳裏を過ぎる。
後ろめたさと同時に募らせた社長への恋情。それがまだ、これで良いのかと自身に問いかけてくる。
だが一切を振り切って玄関を潜ると、急ぎ足で社員用エレベーターに乗り込んだ。
偶然乗り合わせた社員と挨拶を交わす。昨日の件から高速スピードで上昇する最中、私は無言で視線を落としていた。
何度か停止音とともに停止が続くと、最後に機内に残ったのは私だけ。