みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
もちろんこれは覚悟していたこと。ひとつの穴が出来るとなれば、代わりを誰かが埋めなければならないのだから。
私はいつになく鋭いチーフの視線を真摯に受け止め、そして小さく頭を振った。
「この仕事に誇りを持っておりますし、働かせて頂けたことも大変感謝しております。ですが……」
その瞬間、バンっと強くデスクを叩いて立ち上がった彼に閉口する。
背の高いチーフを少し見上げれば、怒りの中に微かな恨み節を感じられた。
「それならなぜ傍で支えてやらない!?
あれのどこに不誠実さがあった!?アイツが昔、どんな思いをしたか……」
「チーフ」と、そこで苦渋に満ちた表情に変わった彼を静かに制した。
「その方が私がよく知る者とすれば、どうしますか?」
「なに?」
訝しげな顔でこちらを凝視するチーフは、まさに意表をつかれたといった様子。
「ですから、どうか内密にお願いいたします。――社長のために」
「何があった?」
「いえ、何も」
「その顔はここで言えない理由がある、と暗に告げているが?」
間髪を入れずの詰問に、思わずため息が漏れる。さすが粘り強いチーフといったところか。