みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
“今さら、何を考える必要があるの?”とクスクス笑った男。
社長こそ何を考えているのだろう。あろうことか、シーツ越しに回していた彼の腕がシーツ内へスルリと入り込んで来た。
「俺フリーなのに、朱祢が償う理由がどこにある?」
「しゃっ、社長がフリーだとか、そんなの知りません!」
「嘘じゃないよ」
嘘じゃないとかそんなのどうでも良い。この男が言えば言うほど、“不特定主義者”という肯定に過ぎないのだから。
「ちょっ、どこ、触って」
「朱祢の腰のライン、下手なモデルより綺麗」
「っ、」
逃げてしまいたい、と身体を傾けてみたがあえなく失敗。それどころか素肌をサラリと妖しく撫でる感触に苛まれた。
大人2人が眠っていても余裕のスペースを誇る、クイーン・ベッドさえ苛立たしいものになる。
これでも日々続けている腹筋のお陰で、ウエスト・ラインのくびれはひそかな自慢だったりするけど。
言っておくがこれはベッドの中で、誰とも知れない別のオンナと比較されるために努力してきたのではない。
「やっ、は、なして、」
「それ、逆効果」
じたばたしていた足を絡め取られ、このまま朝ラウンド出来るほどに密着した距離感は心まで引きつけられた感覚に陥る。
昔からもっとも屈辱なことを、アッサリ口にする男だとよく知っていたのに。なぜ私は、彼に弱みを知られてしまったのだろう…?