みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
日を追うごとに、透子ちゃんは凛とした強さを見せていた。だから家族の誰もが、行かないでと言えなかったのかもしれない。
『朱祢さえ良かったら、アメリカで勉強しない?
そのついでで良いから、私の面倒もちょっとだけ見て欲しいの。軽い気持ちでどうかな?』
最期を待つ大変な時だというのに、私がのちのち桔梗谷の娘として困らないようにと留学を指南してくれた。
通っていた大学を付き添いのために休学するつもりでいたのを察し、帰国後に単位交換が可能な制度で留学するよう先手を打ってきたのだ。
たおやかで気高く、誰よりも思いやりのある人。――ゆえに、愛する人を巻き添えにしたくなかったのだろう。
最後の最後まで、留学中の社長には事実を告げなかった。ゆくゆく大企業を担う彼の足枷になる、と踏んでのことだったと思う。
実際に私は写真で見た社長の元を訪ね、洗い浚い告げようとした。けれど、透子ちゃんに強く止められたのだ。
『私の決心を無碍にしないで』と言われ、その強い眼差しに頷くしかなかった。
その彼女が頼ったのは、皇人こと里村社長らしい。
先輩の彼に協力して貰い、浮気したと自分が悪者になって社長に別れを告げたそうだ。