みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
逢瀬、伝える。


彼の変化は透子ちゃんを愛しているという証。何より、私がしたことは欺瞞以外の何物でもなかったのだと。


「あら、われて……、ごめん、なさいっ」

じわり、じわり、瞳には再び涙が溜まっていく。それでも歯を食いしばり、グッと堪えて最も大切な言葉を口にする。



「あ、んなに辛い……病気と闘っても、弱音のひと言も吐かなかったっ、と、うこちゃんの、最後の……願いだった、んです。
――しゃ、ちょうが……幸せになれ、たよね?……その姿をっ、教えてね……って」

何とか言いきった私の視界は歪み、涙は止め処なく零れ落ちる。


何度もしゃくりを上げながら、最後に「ごめんなさい」と小さく重ねた。


そこでスラックスの埃をパッと手で払いながら立ち上がった社長。


向かいに立ち、こちらを見下げるその顔からはとても考えが読めない。



「どうして秘書に配属されたと思う?」

「……スペイン語が出来たから、ですか?」

すると不意の問いかけに自信なげに答えれば、フッと一笑した社長から目を逸らす私。


「じゃあこれは?」と加えて、内ポケットから取り出したものに目を見張る。


「このメガネにあれほど執着してたのは何で?」

そもそもの関係が始まった、何よりも大切なメガネを前にバッと勢いで奪い返した。


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