みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
すべて私が悪い。――遠回しな謝罪を固い口調でピシャリと制され、不本意だが続きの言葉を呑むしかない。
「桔梗谷さんが親父に事実を告げたのは朱祢を守るためだ」
「なぜ、そう思うんです?」
「朱祢に対する親心じゃないかな」
「フッ…、私はもう成人した丈夫な人間ですから」
「それ、透子もよく言ってた」
「っ、」
「日常や自分の身体が簡単に壊れるなんて、誰も思って生きてない」
嘲笑したつもりがあっさり畳みかけられてしまう。何の根拠もない、無意味な過信だと言われた気がした。
葬儀は透子ちゃんの意向で密葬を希望したが、桔梗谷の名前がそれを許さなかった。
結局、私は飛行機で透子ちゃんとともに日本へ帰国して葬儀を行った。
「透子ちゃんは、……本当に、貴方を……愛してました」
「知ってる」
「私も、貴方を……会場でお見かけしました」
「その時に会ってたのか」
溜め息交じりに納得した顔をみせる社長に頷いた。……そう、あの時こそが彼と初めて会った瞬間だ。