みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
周囲に存在を知られるわけにはいかず、葬儀には参列できなかった私。
それでも最後まで透子ちゃんの側にいたいと懇願し、なんとか会場の裏でひっそり様子を窺うことが許された。
都内の斎場でしめやかに営まれた葬儀には、透子ちゃんの訃報を聞きつけた大勢の参列者が訪れた。
彼女が闘病生活を送っていたことを知り数多くの人が涙する中、ただひとり無表情だった人。それが数年前の社長その人だ。
美しい彼女の遺影を無言でジッと見つめる彼の瞳は、空虚そのものだった。
その場で事実を伝えるにはあまりに惨く、見届けるのも胸がひどくキリリと痛んだ。
表情を一切変えず、涙を見せずに遺影から背を向けた社長。その哀愁漂う姿を前にとても引き留めることなど出来なかった。
「幸せになって欲しかった……」
「そうだな」と言う声を聞き、切なさで言葉に詰まる。
後悔が取り巻く中、透子ちゃんの最期の願いだけは叶えたかった。――ただ社長が幸せになることだけを望んだ彼女のためにも……。
「透子ちゃんの願いはおろか、父が望む娘にもなれませんでした……」
とにかく安全な場所に住めとか新聞や本を読んで見識を広めなさいと言ってきた。