みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
“離して”と言えば良いのに、真っ直ぐな瞳を前に簡単なフレーズさえ言えずにいるとそこで沈黙が訪れた。
私の答えを待っているのか、ピタリとそれまで愛撫に興じていた手の動きを止められる。
社長が上に被さっているとはいえ、触れられていない今なら脱出可能だというのに何のアクションも起こせない。
「タイム・オーバー」
「やっ、…あ、ん」
すると、かの言葉が耳に届いた瞬間。すっかり絆されていた箇所へ不意に、骨ばった指の感覚が一気に埋めるように襲う。
それが熱くなっていたナカで蠢く度、くちゅりと瑞々しい音が室内に響き渡ってさらに感覚を失わせる。
次第に中を埋める指の本数を増やされているコトも、そのスピードと激しさが増していることも分かっている、のに。
「あっ、…ん、っふ、」
声を押し殺すために自分の人差し指をカリと噛むのが精一杯――ますます望んでいる答えと遠ざかってしまった。
初めのふわふわとした感覚とオサラバし、今はあまりの巧さに屈してすでにスパーク寸前に陥っている。
「…ふっ、あ、んんー…!」
熱に侵された吐息とともに目の前がチカチカし始め、もう何も考えられないと感じた刹那。
激しさを増していた動きがピタリと止まった同時、くちゅりと中を埋めていた指先がスッとそこから抜けた。
「コレで止めていいワケ?」
バリトンの声音で問い掛けるとともに、目の前に見せつけられる彼の指を潤すみだらな潤いのアト。
扇情的な眼差しは今まで肌を重ねたどの男より、…いや比に値しないほどセクシーに映るから。
答えかねる私の唇に易々と、ちゅっとキスを落とす身勝手さで生理的な涙が流れていた。