みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
少々うるさいなと思ったものの、気に掛けてくれる父は唯一の肉親。嬉しくも感じたから素直に受け入れてきたのだ。
「あか」
「でも!でも、……これで良かったと思います」
何かを言いかけた彼を遮り、あいまいな一笑に付した。そして表情を引き締めると、改めて彼と対峙する。
「だから、……辞めさせて下さい」
「なにを」
「私は、透子ちゃんの代わりにはなれない。だから……、私自身でいられる場所に行きたいんです」
俄かに目を丸くする彼を前に、また涙腺が緩まりそうだ。
整った顔立ちで軽口を叩くところも、嫌味のないスマートな身のこなし方も好きだった。
透子ちゃんから聞いていた以上に、ラフで人を飽きさせないところも惹かれていた。
どんなにダメだと心に言い聞かせても、それを上塗りするようにまた好きだと実感するばかり。
好きになったのが間違い、なのではなく。私たちは出会ってはいけなかった。
いや、私が彼に会ってはいけなかったのだ。
「好きだ、って言っても?」
「っ、そ、れは……わ、たしを通して透子ちゃ、んを見てるんです」
「俺を見縊(くび)るな!」
静寂に響いた怒鳴り声で肩がビクリと小さく揺れた。