みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
みだりな逢瀬。
何も言わず、ゆっくり目を閉じた社長がやけに愛しく感じて。何度も抱かれた胸に縋りつきそうになった私は、そのまま資料室をあとにした。
彼を好きになったことを後悔している今、自分でも感情をもてあましていた。だから、この想いを心にしまってあたためるべきだと。
透子ちゃんが命を懸けて愛した人を好きになれて良かった、といつか胸を張って言えるように……。
* * *
「アカネー!」
静寂に包まれていた昼下がりの秘書室。その空気をあっさり破る声に、溜め息を吐きながら立ち上がった。
ブラックのスーツにスカート。さらに先日、グッチで購入したばかりのハイヒールで向かったのは続き部屋である。
トントン、と形式的にドアをノックをして開けると、だだっ広い部屋の奥には大きなプレジデントデスクが見えた。
「ボス、どうなさいました?」
大声で呼んだ割には呑気に机上で腕を組み、顎まで乗せている男に頭が痛くなる思いだ。