みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


そしてコーヒーサーバーからエスプレッソを選び、抽出されるのをジッと見つめる。


黒い液体が芳醇な香りを放ちながら真っ白なカップを埋めていく。



私が私でいられるために選んだ場所。それが透子ちゃんの最期を看取った場所でもある、アメリカのシアトルだった。


真央とは留学中に知り合っており、こちらにやって来た私に現在の仕事を紹介してくれた。


会社のトップであるレイフが学生時代に興した“R・F・A(アール・エフ・エー)”は、ざっくばらんに言えばIT関連企業だ。


PCソフトやスマホのアプリ開発はもちろん、昨今では宇宙開発やこの一帯で盛んな航空分野にも乗り出した。


そのため従業員数も増加し、現時点で約2000人がR・F・Aに勤めている。


ちなみに私は彼のスケジュール全般を管理しており、最近はヨーロッパ出張に同行する機会も多くなってきたところ。


皮肉にもCEOの私的秘書だったものの、最近ようやく私には天職かもしれないなと思えている。


人と一線を置くためのメガネは取り去って、スーツも女性らしいスカートにチェンジしたり。ミディアムロングのストレートヘアに、メイクツールや香水だって変えた。


思いつくモノすべてをチェンジして、日本での間宮 朱音とさよならした1年。――すなわち、日本を発ってもう1年経つ。


< 247 / 255 >

この作品をシェア

pagetop