みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


――1年があっという間だったとは思えない。でも、もう少し経ってまた振り返った時にはきっと早かったなと感じるはずだ。


熱々のコーヒーが入ったカップを手にして給湯室をあとにし、続き部屋の秘書室へと戻った……。



「アカネ、今夜も残業?」

カタカタ、とテンポ良くPCのキーボードをタイプしていると隣席から声が掛かる。


「ええ、2日間休暇を貰った分は雑務を片づけたいし」

「真面目よねー。気にしないで良いのに」

「そんな訳にはいかないよ、迷惑掛かるから」

「そういう時こそレイフの実務秘書を使えば良いのに。
それかレイフに頼めば?アカネの頼みなら喜ぶわよ」

左方の席でデスク上を片づけながらあっけらかんと言う真央に苦笑する。やはり日本人が勤勉というのは本当のようだ。


「じゃあ楽しんで来てね!」とバッグを提げ手を振った彼女を見送り、再び参考資料とにらめっこ。


ちなみに隣の社長室のレイフは不在。下の大会議室で役員とともに例のNY支社とのテレビ会議中だ。


高層ビルの窓から臨む景色はすっかり夕闇に染まっていた。ビル群の光りが無数に点在しているあたりは日本とさして変わらない。


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