みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


ぼんやりすると浮かぶのは、最後に見たあの表情。


意地の悪い発言も、仕事にはすこぶる厳しい姿勢も、それらすべてがまるで昨日のことのよう。


干渉的な思いを振りきるため、さらにタイピングを速めた。


明日、明後日と許可を貰って休むのだから油を売っていてはいけないと戒めて……。



翌日の朝、私は市内にある墓地へと花束を持って向かった。


薄手のミントグリーンのカーディガンを羽織り、グレーのプリーツスカートに黒のバレエシューズが今日のスタイル。


真っ黒な格好をすると彼女に怒られるだろうな、と今年も少し大人しめにしたのだ。



穏やかな風が吹く春の気候を感じる今日は3月15日。――大好きな透子ちゃんの命日であった。


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