みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


ちなみにアメリカでは、5月に死者を追悼するメモリアルデーが設けられている。


また魂は墓場に留まっていないというキリスト教の考え方からお参りの習慣もあまりない。


まさにところ変わればだけど、私はやっぱりこの日に彼女を偲びたかった。


誰ひとりとしていない、静寂に包まれた辺り一帯。管理の行き届いた広大な敷地はまるで緑が故人を守っているようだ。


透子ちゃんの遺骨は、日本の都内にある桔梗谷家のお墓と此処のふたつに分けて納骨されている。

これも透子ちゃんの遺志を父が叶えたものだった。


こちらでは埋葬が一般的だがもちろん納骨は可能。ただ墓石はこちらに倣い、土の中に平坦に埋め込んであるものにした。


彼女の名が刻まれた墓石の隅に、三角錐の形をした花瓶の先端を土に立てる。


そして花屋で購入した、紫色のトルコキキョウを花瓶の中いっぱいに供えた。


水を得て元気になったのか、優しい風に乗って紫色の花弁が幾重にも揺れている。


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