みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
「先客がいたんだね」と言いながら笑う。
ふたつ分の花瓶を持ってきたのに、既に白と赤い薔薇の入った花瓶がひとつ隅に立てられていたのだ。
そうして墓石を前にそっと両手を合わせると、静かに目を閉じてお参りをした。
実はここを訪れたのは今日で何度目かも分からない。それくらい、寂しくなる度に彼女に会いに来ていたのだ。
お参りを終えるとゆっくり目を開く。冷たい墓石は今日も無機質なものだった。
それでも透子ちゃんをこの世で一番近くに感じさせてくれる場所でもある。
中座の姿勢を取って姉妹での短い時を懐古すると、やっぱり今回も笑顔の透子ちゃんが真っ先に浮かぶ。
底抜けに明るくて、自分以上に人を思いやれる優しさを持つ人。
彼女のそんな人柄に少しでも近づきたいけれど、まだまだ当分ムリだろう。
「透子ちゃん、……私ね、コッチに来て良かったと思う。
……好きになってごめんね。でも、本当に幸せだったって今は少し思えるから」
社長へ抱いた愛情に遅い罪悪感を覚えて、都合よく逃げたのは事実。
それでも消えない想いは今も心を占有し、新たな恋愛などとても考えられない。――愛しいのは今も変わらず、ただひとりだと。
「――もう過去形?」