みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
見事にベッド付近で散らばっていた、スーツやランジェリーを素早くかき集めると。
ミネラルウォーターを飲む男はスルーし、情けないすり足でバスルームへ直行する私。
グダグダに崩れているだろうメイクも、高級アメニティのクレンジングでオフ出来るとホッとした。
身を隠して来たシーツを取り去って、大きなジャグジーに何の魅力も感じることなくシャワーの蛇口を捻れば。
途端に白い湯けむりが辺りに立ち込め、強めの水流が肌を打ちつける感覚に身を預けた。
「…本気でバカ、」
熱いお湯に打たれながら、ポツリと呟いた言葉。それは敗北宣言に等しいもの。
シャワージェルやシャンプーを使えば、全身についた彼の粘液や匂いはすぐ消える、だけど。
素肌へ目をやれば後悔が襲う――つけられた内外の“痕”が消えるまで。いや、ずっと消えない…。
* * *
「…使わせて頂き、ありがとうございました」
バスルームへ閉じこもってから15分後――昨日の服を着て、ノーメイクで戻ることに躊躇いはない。
むしろ仕方がなかっただろう。…あの状況でバッグまで引っ掴める余力が残されていなかった。
「そんなに変わんないじゃん」
「お世辞に感謝します、」
“素直じゃないな”とひとつ笑って、ソファで新聞を悠長に読む男に舌打ちしたくなった。
さすがの高級シャツだって、2日と同じであればシワが寄るのに。それさえワイルドさへと塗り替えるのだから。