みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
眼をパチクリさせればその度に、これが夢ではないと知らせる。いや、こんなに間近で見たくもない。
まず手始めに、背中に回されている腕に疑問を問うべきか。それとも先に、現在地を問うべきなのか?
ぐるぐる駆け巡る考えが優先順位を決めさせず、やたらと近くにある男の顔を背くことも忘れていた。
「へえ、流石の有能秘書でも“コレ”の後処理は苦手分野?
昨夜はあんなに大胆だった、」
「ち、違います…!」
否定の頭を振ってこの場を逃れてしまいたいものの、相変わらず腕の力が解かれないゆえ叶わず。
酔っ払って服を脱いでしまい、それを開放して下さったという考えは生憎、身体のナカの余韻が阻む。
ほぼゼロに近い記憶を必死で辿ってみれば、…ぼんやり浮かぶ昨夜のセックスのお相手がこのオトコだと思いたくないのに。
「あ、記憶はあるんだ。
相当酔っ払ってたから、挿れた時は意識なさ」
「朝から卑猥なフレーズをサラッと仰るのはお止め下さい――社長!」
そんな表情の変化を瞬時に読み取られ、さらに事実を肯定する“生々しい”台詞に苛立ちが言葉に現れる。
自分の働いている社のChain社のPreseidentこと、高瀬川 叶(たかせがわきょう)氏に対して、だ。
「クールな朱祢が怒鳴るのも意外だね、」
「な、なぜ私の名前を」
「自分の第二秘書くらい、名前を覚えるのはNaturalだろ?」
嘘っぱちな極上の笑みを向けられ、別の意味でクラクラと目眩を感じた。そんな私こと、間宮 朱祢(まみや あかね)がお得意とする、平常心へ戻れるには未だ遠いよう。