みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
もしこれでアッサリ辞めれば、今まで我慢を重ねて来た私のプライドはどうなるのよ…?
「今後も不出来な秘書として…え、」
“お願いいたします”と継ぐ筈が、不意に腰をグイッと力強く引かれて前のめりになった。
「そういう意味じゃないんだけど。分かってる?」
「…離して下さい」
狼狽する間もなく傾れ込んだ先は、約1時間前まで素肌で触れ合っていた男の腕の中。
「朱祢って、ストレートの方が似合うね」
「どうでも良いっ、」
身動き取れずにいる私を片腕でホールドしつつ、反対の空いている手が乾かしただけの髪を撫でてゆく。
ジタバタ暴れようにも先ほどから膝に触れている、セックスの名残たっぷりなベッドが行き場ゼロを証明していた。
――つまるところ。大事なメガネのみに囚われて、目先の危険性には注意が疎かになっていた。…私を抱いた男に対しての。
「まだ足りなかった?」
「違います…、ひゃっ、」
彼の胸をグイグイ押して距離を取ろうとすればそれさえ嘲笑い、今度は首筋をツーと指でなぞった。
「これ以上、暴れるのは得策じゃないと思うけどな。
せっかくエロい朱祢に溺れながら、必死で“気遣いした”のに報われない」
「ッ…、」
本心などまったく窺えない発言でも、そこで閉口するには十分であった。
シャワー後に安心してスーツを着れたのは、見える箇所を避けたキスマークのお陰だから。
ぐうの音も出ないでいる私に微笑し、“百人切り(真偽は定かではないが)”の彼から同じアメニティの香りがした。
――秘書として仕える立場で、アッサリと寝た軽い女のカテゴライズにもされた自分に泣きたい。