みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
目的階へ到着して降りた私は、右手へ進んで自室の905号室の鍵を開ける。
ドアの向こうは1DKと、ひとりには十分な空間だ。ドアを閉めて施錠をしてから、パンプスを乱暴に脱いで部屋へ上がった。
そのままバスルームへ向かった私は、再びシャワーを浴びることに。たとえ痕が消えなくても、あの男と同じ香りを纏っていたくなかったのだ。
肌を強く打ちつけていく熱めのシャワーに身を任せ、無心になろうと目を閉じる。
――だけど、戒めは忘れることを許さない。…近づくなと警告するかのように。
『なんで!?どうして…、』
『もうタイムリミットなの。…朱莉ちゃんだけ、背負わせてごめんね』
「…っ、」
脳裏を過ぎった言葉にハッと目を開いて、思わず自分の身体をかき抱く私。
途端に自分の肌に残る鬱血痕が汚らわしくなり、…罪悪感と今さらの後悔が身を震えさせる。
「…ごめ、ん、…ち、が、うよ、」
誰もいるわけない浴室でひとり、シャワーに打たれながら呟いていた言葉。
やっぱり私は、あのメガネをかけていなければ未だに自分を保てないのか。
フッと自嘲を浮かべてその場にへたり込む。この心の行き先が、間違っても彼であってはならないと再確認した…。