みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
行き場のない怒りは手持ちのスマホへ向かい、叩きつけるようにベッドへ投げていた。
呼ぶ権利…?コッチには行かない権利が発生するわよ!――と、言えなかった代わりに。
閑散とした部屋でひとり、チッと舌打ちを立てても所詮は負け犬の遠吠え。寧ろ、ヤツの手中で転がされていると同じ。
さらに我に返って気づいたのが、自分のクリアな視界。それは明日からメガネ無しで生活を暗示している。
「絶対ムリ…!」
虚しく叫んだのも束の間。お団子ヘアにオサラバし、バタバタと軽いメイクに取り掛かっていた。
テキトーなお化粧にオサレ帽子をかぶり、洋服はデニムとニットのプルオーバー。さらに足元はハイヒールがお約束。
クールなネイビー色にボートネックのラインで綺麗さ勝負のトップスは、シンプル大好きな私の鉄板だ。
もちろん胸にはたくさんの痕がついていたものの、“気遣い”のお陰でデコルテを晒すことが出来た。
ちなみに海外ブランドのデニムをこよなく愛する私は、スカートを仕事でしか穿かない主義。
素性を知らない人は驚くかもしれないが、オトコ受けとかどうでも良い。周囲や友人たちを尻目にクールスタイルを貫いている。
仕上げにコーチのブラウン色の革バッグを手に持ち、部屋のドアを施錠するとヒールを軽快に鳴らしてマンションをあとにした。