みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
性格の悪さを滲ませる発言に青筋が立ちかけるが、ここも笑顔でやり過ごす。
グダグダと言われるより、むしろ一蹴する上司の方が仕事はやり易い。
あくまで仕事をするための場で、チーフに指示を受ける側の私には彼の腹黒度合いはどうでも良いことだ。
ファイルを携えて静かに席に着くと、取り敢えず残務を一掃することに終始した…。
18時台にどうにか退社をした私は、急ぎ足で混雑する電車に乗り込んだ。
手すりに掴まりながら、ようやく終わった1週間にひとまず安堵する。
自宅マンションの最寄り駅で降りると、ヒールでアスファルトを蹴るように速足で向かう。
到着したひっそり静まり返った部屋。鍵を開けて中へ入ると、無造作にバッグを床へ放ってスーツも脱ぎ捨てた。
オレンジカラーのドルマンタイプのニットに、今日はブラック色のスキニーパンツをチョイス。
その前にメガネを外してから着ると、アップヘアも下ろしてゆるく自然に。深紅のクラッチバッグに財布とスマホと鍵を入れて、エナメル素材のハイヒールを履いた私は再び部屋を出た。
乗り込んだエレベーター内でルキアの腕時計に目を配れば、約束の19時まであと10分強ある。
開いた扉を出てエントランスを抜けると、さっき以上のハイヒールで駆けるように目的地へ向かう。
いつも利用する駅とは反対側に位置し、自宅にほど近い商店街の一本裏に進んで行く。
そこは多くの居酒屋が軒(のき)を連ねる中に建つ、小さなドアの可愛らしいお店が待ち合わせ場所だ。