みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


木製の引き戸を開けると、カラカラと小気味良い音を立てた。


同時に店内の客の賑やかな声音が、まるで私を出迎えるように響く。


「いらっしゃい!いつもの席ね」

「ありがとー」

さらにはカウンター越しに、にっこりと満面の笑みを交わして店の奥に入って行く。


小さな出入口から想像するより、店内は意外にも広い。

かつて隣りにあった居酒屋が店を閉めた時、その土地ごと買い取って2つの店を1つに改修したからだとか。


木のあたたかみを感じられて、ホッと寛げるこの空気感がとても好きだ。


また大人数を受け入れるほどの大きさじゃないため、店内から聞こえる声の色は一般的な店とは少し違う。


住宅街が近いこともあり、家族連れや主婦層に人気のあるお洒落な居酒屋といった雰囲気である。


すべて手作りのおばんざいがカウンター上に並び、和洋のメニューも幅広くてリーズナブルなところもその所以だろう。


そんなお店――ソレイユは、ずっと前から私の行きつけだったりする。


一番奥のテーブル席に座る人の向かいに、私は静かに腰を下ろした。


目が合った瞬間、小さく破顔した彼こそが今井くんである。


「お待たせ」


「いや、さっき来たところ」

ジャケットを脱いで、シャツとネクタイ姿の彼はまさに仕事終わりの様相だ。


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