みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
それが嫌味に映らないから悔しい。…私なんて今週、不埒なオトコのせいで疲弊具合が半端じゃないのに。
「もう少し労わってよ」
「酒があれば必要ない」
そう淡々と言いきる、気遣いゼロな向かいの男には舌打ちをしても無駄だ。
「それじゃあ何にする?」
「徳島の芋焼酎――お湯割り!」
そんな私たちのピリピリ感をあっさり一蹴する、晴の呑気な声音に威勢よく返した私。
「俺はビール…」
「なに?付き合い悪いな。
楓も焼酎だから、ボトルごとお願いね!」
「分かったー」と、にこにこ笑って下がった彼女。ふわふわしている晴は、やっぱり存在だけで癒される。
ちなみに社内で名字呼びの同僚については、“素”を晒す状況になれば名前で呼び合うのが習慣だ。
――それは理由や事情こそ違えど、本質的な何かが通じているからだろう。
「…あーあ、ビールが良かった」
真向かいで頬杖をついている楓が、ビールを愛飲していることは百も承知。
「うーるーさーいー」
「なにイライラしてんの?」
ご尤もなお尋ねに、ぐっと言葉に詰まる。ここで目が合ったのが運のツキ。
楓の瞳は心の奥底を見抜くようで、たまに居心地の悪さを感じる時がある。