みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
――さすがに社長に喰われた挙句、メガネを物質に性欲処理係に任命されたなんて言えるか。
「…自業自得って言うから――秘密」
「あ、そう」
「もっと突っ込めよ」
「それこそ理不尽じゃん」
さすがに鼻で笑われてしまったら、ここは舌打ちの出番。ガヤガヤ騒ぎ立つ店内で、チッと小さな音を鳴らした。
「あかねん、はしたないよー」
そこへボトルとピッチャーを持って現れた、晴の窘めるような声に視線を移す。
「はるぅ、それなら楓に怒ってよ!いたいけな女子を…」
「ひまわりがここにいたら真似するでしょ?
あかねん、ほんとに気をつけてよ?」
「…はぁい、」
前方の男が肩を小刻みに揺らして笑っているのに、なぜ私だけ晴の教育的指導を受けなければならない?
――こういう時、オトコってずるい。女よりも逃げ上手だから。…いや、楓は特殊か。
「ていうか、“ひまわりん”今日はどうしたの?」
「ちょっと風邪気味でね。ママに看て貰ってるの」
持ってきたものをすべてテーブルに置くと、小さく笑って答えてくれた彼女。
「えー、そんなぁ。心配だね」
「ママがいるから大丈夫」
ちなみに私の言う“ひまわりん”とは、晴のもうすぐ3歳になる愛娘のことである。