みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
逢瀬、埋れる。
帰宅後は自宅でパワーをやる気に無理やり変えて、持ち帰った資料を必死に記憶した。
あんなに集中したのは、社長との情事が思い浮かび上がらせないため。
ただチェストに飾ってある、ひとつの写真立ては十分な抑止力になっていた。……自分の本来の目的を見失うなと。
* * *
いつものスタイルで人の流れに乗ってオフィスへ向かう、身も心も重い月曜日。
更衣室へ立ち寄ったあと、秘書課のドアを開ける。月曜日はいつもより早めに到着して、軽くデスク上を掃除するのが習慣。
一日の大半を過ごすデスクを少し整頓するだけで、爽やかな気分になるからだ。
「おはよう」
「…おはようございます」
背後から掛けられた声に、振り向きながら返す。そこには仏頂面の田中主任の姿。
ヘアもスーツも寸分の乱れなく、仕事人間を絵に描いている。だけど、少しのお洒落エッセンスがダサさを一切遠ざけている人だ。
「――どうだ?」
「はい、大丈夫だと思います」
「ならいい」と短い言葉を残し、スタスタと席へ向かってしまう彼。
さっきの問いかけは、先週末に出された宿題について。微笑を返す余裕がなければ、彼の下ではやっていけない。
その後ろ姿は常に自信に満ち溢れており、まあ嫌味なくエリートさんの様相だ。