みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
いや、それでも…すっかり慣れていると思われるのも勘弁して欲しいものだ。
よもや社長秘書に回されるとは想像もしておらず、本心を言えばその指示が出された時点で、さすがに辞める選択も脳裏を過ぎったが。
「先方の耳より情報より。目の前の間宮さんの方が気になるなぁ」
「…ベッドで外す前に、そのまま眠ることも多々ございます――これで宜しいでしょうか?」
30分ほどの乗車ですら話す行為に疲れを覚えはじめ、肝心な用件は彼にiPadで確認して頂こうとバッグから取り出す。
口頭で済む件だから車内で終えれば、と考えていた乗車前の自分を激しく呪いたい。
こんなに嫌悪感を示しながらも、一流大卒でも就職難とされるこのご時世――苦労して入った一流企業での職を、易々と手放したくなかっただけ。
「メガネのままか…、それも趣があっていいね」
「ご想像にお任せいたします」
「いいね、斬新で」
「手を離して頂かなければ、画面をご覧頂けませんが?」
「そう?」
「あと5分ですので、お願いいたします」
仏頂面で返すような女のプライベートでさえ、クツクツと笑いながら盛り立てる迷惑オトコが社長だとしても致し方ない。
高瀬川 叶――本当にナニが良かったんだろうか。こんな顔と仕事とスタイルだけのオトコ!…って、これだと褒めているみたいで癪だ。