みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
今日は社賓さんが多く、あの男と会話を交わす機会も希薄だった。無用な積極を避けられて、安堵したのは言うまでもない。
しかし、私用スマホへの連絡もなかったことは問題だ。向こうから持ちかけてきた、例の約束事はどうなる?
――出張当日ともあり、その日は2人とも東京にいない。一体どうするつもりだろうと。
「……それくらい連絡しろ!」
堂々巡りの中ぐるぐる考えていれば、段々と社長の言動にまた腹が立ってきた。
静寂の中でツッコミを入れると、家庭用プラネタリウムを止めた。途端に天井は真っ暗になり、布団を頭ごとすっぽり被ってしまう。
星空を眺めても癒されないのは、純粋とは縁遠い性格だから。……どんなに願っても、彼女に近づけるわけないのに。
翌日は早朝に出発とあり、朝の4時過ぎには目覚まし時計のベルが鳴り響いた。
あまり眠れずに重い身体を起こすと、いそいそとベッドを抜け出す。顔を洗って、メイクをある程度施した。
早朝からのメイクでは崩れること必至。だから、途中で重ねられるように控えめにするのだ。
お決まりのアップヘアは、遅れ毛ゼロを目指す。面倒だけど、スキのなさは清潔感にも繋がるから。
ライトグレーのスカートスーツを着用すると、腕時計などの小物類をつける。
食欲もなく眠気覚ましのコーヒーを口にして、そろそろ出るかと立ち上がった時。
ベッドサイドに無造作に置き、前夜から充電していたスマホが着信音を響かせる。