みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
首都高速に入った車は東名高速へ順調に進み、その途中で何度か休憩を挟んだ。
朝食を摂っていなかったのは彼ら2人も同じだったようで、SA内にあるスタバでコーヒーとそれぞれフードを選んで簡単に食べた。
そのあと車内で簡素な打合せを終えると、着信を響かせたiPhoneやメール処理のiPadを操作する社長の隣で閉口した私。
革張りシートに背を預けながら、目を閉じて冥想する。……今日こそは、秘書の間宮を貫き通そうと。
その間も静寂の中を走行する車は、不思議と瞼の開きを阻むように感じられた。
この頃の寝不足も相俟って、人を乗せるために設計された高級車の揺れの心地良さは困りものだ…。
「…さん、間宮さん」
暫くすると頭上から呼ぶ声が聞こえて、薄目をゆっくりと開く。だけど、次の瞬間には大きく見開いた。
「ん――えっ!」
その声主はおろか、顔を覗き込まれていては当然のこと。まして私は、彼の肩に寄り掛かっているのだから。
「よく寝てたね」
「も、申し訳ございません!」
寝惚ける間もなく、クリアとなった視界は社長を一点に捉える。自分の今ある状況はあまり宜しいものではない。
「全然――もしかして、…緊張で眠れなかった?」
「っ、」
跳ねかえったように身を引くはずが、……背中を介して回されている彼の手は、それを呆気なく阻む。