みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
そこで薄墨色の眼差しと絡む視線が、なぜか自身の身体を強張らせていた。この状況を受け入れるわけがないのに。
「そんなに寝心地良かった?」
「も、申し訳…」
僅かな冥想タイムのはずが、睡眠タイムにすり替わっていたらしい。確かめるような問いかけをする声に、私の顔はまた引き攣った。
「朱祢の寝顔って可愛いのに。…メガネが邪魔してもったいない」
「っ、」
「コレ、どこで仕入れた?もっと似合うフレームがあっただろ?」
――どなたかこの嘘っぱちオトコの口に、ガムテープを貼って黙らせて貰えないだろうか?
社長からの攻撃に耐性があるのは、あくまで秘書の間宮を貫いている時だけ。
寝起きで頭も冴えない今、耳元でやたらとセクシーな声を響かせるのは反則も良いところだ。
「どうしたの?」
「…いえ、」
仄かなコーヒーと社長の爽やかな香水の混ざった香りは、やり手のビジネスマン風情そのもの。
彼からお酒が香る時より、よっぽど健全かつ安全だけど。肩に置かれた手と嫌でも耳に入るその声が、私の平常心を失わせるのは事実。
「ああ、そうだった」
目を泳がせて急場を凌いでいたところ、ククッと喉を鳴らして軽快に笑った彼。
「有言実行――分かっているよね?」
おもむろに顔を寄せて来た社長に、思わずギュッと目を瞑る。また耳元で囁かれた時には、自然に拘束が解けていた。