みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
秘書さんに出迎えを受けて、ブラウンレザーのソファへ落ち着いた私たち。
ホテルの最上階にあるプレジデント・スイートは、私のワンルーム部屋よりはるかに広い。
ソファスペースからはベッドルームは窺えず、藍色ベースの室内はシックで高級感に溢れていた。
乳白色の大理石テーブルを挟んで、男性2人と対峙している現在。――場が華やぐという発言の意味に、今ひとりで合点した。
「朝から晩まで、居心地が良さそうですね」
「良くも悪くも――でしょう」
嘘っぱちな笑みをたたえた社長の向かいで、じつにクールな良いオトコが言う。
社長とは対照的に、その整った顔立ちを崩さない。淡々と発する言葉も単調でいて、隙を見せないところがお上品。
さらにメガネの向こうの瞳が艶やかな黒で、それもまた切れ味が抜群に映る。
言うなれば、見惚れたいけど彼の発する雰囲気がそれを封じさせる男性。……私的に、彼の容姿はストライクゾーンだ。
「実際に利用した女性からは、厳しい意見が多いようですしね」
隣の社長のように、誰かれムダに色気を垂れ流さない。冷徹なだけの田中主任のような刺々しさもない。
それこそが高階コーポレーションの若き精鋭――高階 彗星専務である。
着ているスーツは質感とデザインから高級ブランドと一目で分かるが、嫌味にはならない。
それは服に着られることなく、自分のオーラを品よく主張しているがゆえ。……ウチの社長が王様とすれば、貴公子の称号は彼のものだろう。