みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
私の前方で腰を下ろしている秘書の男性は、屈強そうなマッチョ体型だが、会話をしてみると物腰の柔らかい人物だった。
――周囲のうわさの通り、やはり紳士的対応が光る企業のようだ。
ちなみに通称・高階コーポといえば、IT企業としてその名が知られており、本社もChain社と同じく東京にある。
敢えてこのホテルで待ち合わせた理由――それが今回の商談に繋がっている。
「高階専務。なぜ今回、こちらを買収対象に?」
そう発したのは、今まで穏和な顔つきで高階専務を見ていた社長だ。
対して専務は、ゆっくりと目を伏せる変化を見せた。その落ち着いた姿は、気品を兼ね備えている。
「ホテル事業を考えていたところ、この話を小耳に挟んだので。
ご覧の通り――コスト削減等、少々のメンテは必要ですがそれもまた楽しみです」
真っ黒な瞳が社長を一点に捉えて話す。淡々としたその口調と声色に、そこはかとない自信を匂わせていた。
年数も浅い豪華なこのホテルは、彼の話すようにChain社や高階の物ではない。
ここを所有する企業が急速な事業拡大による債務超過に陥り、ホテル経営から撤退した。
その企業が引き受け先を探していたところ、高階グループが手を挙げたという訳だ。
「なるほどね。高階さんらしい」
嘘っぱちな笑みを浮かべた社長。ここに女性が同席していれば、その顔でオトせるかもしれない。
そんな私たちがここへ訪れたのは、先方が買収した全てのホテルの改修のため。