みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
薄墨色の眼差しが真剣なものへと変わり、画面をスクロールしながら重要項目をチェックするのは確かに様になる。
このまま黙っていれば、極上クラスにイイ男なのだろうが…、あいにく“諸事情”を知っているとそれさえ認め難いものだ。
「的確な情報収集ありがとう。毎回助かっているよ」
「…いえ。お役に立てましたら幸いです」
iPadの画面をチェックし終えて返してくれた社長と目が合えば、スマートな笑みと科白が胡散臭いと思うのもそのせい。
――間宮さんとか…、よく素知らぬ顔して呼べるものね。さすが多くの女性とお戯れされているわ。
バッグに機器を収めながらコッソリ悪態をつく私は、やっぱり昔の悪行を忘れられない。それどころか、当事者でもないのにまだ恨んでいるようだ。
社長秘書なんて羨ましいとか、何で地味な女を選ぶのとか…、あれは縁故採用だとか。外見とはおよそ無縁な批判を受けるくらい、それは本当にどうでも良かった。
まあ…、内心で何度、“私の代弁でも良いから人事に直接言ってくれ!”、と言いかけたかは計測不能。
――それら醜聞うんぬんより、社長となるべく関わらないようにして働く方法を模索する日々で忙しかったのだ…。
暫くして取引先であるCK社・本社ビルのエントランス脇へ到着して車から出ると、今ごろ代打の重責から少しばかり緊張が増す。
「信頼してるから、間宮さんのことは」
「…感謝申し上げます」
こんな時、ふと気に掛けるような嘘っぱちのフレーズなんて貴方に求めない。これ以上、関わらずに済みたいだけだったのに…。