みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
友人いわく専務の奥さまの怜葉(ときは)さんは、これまた品のある素敵な女性とか。
経緯はあまり知らないみたいだけど、2人は社内で知り合って結婚に至ったらしい。
とにかく専務の溺愛ぶりには、周囲が吃驚したとか。さらに秘書は男性を指名し、女性との接遇にも注意しているそう。
――さっきの発言を聞いた私でも、奥さま大好きな方だってすぐに分かったよ。
とはいえ、仕事を完璧にこなしつつ、家族と共に過ごす時間を最も大切にしている専務。
彼が結婚するまでの社内では、ハイスペックな彼を狙う女性が多かったそうだが。
かの貴公子の変貌ぶりに呆れたのか、今や誰も手出しする気が起きないようだ。
薬指の指輪と幸せオーラに当てられるわよと、友人は笑って教えてくれたけどね。
――そんな専務の真摯な姿勢を、当社の嘘っぱち社長はほんの僅かでも学ぶべきだ。
暫くすると話は切り替わって、室内の空気もピリリと辛口モードに包まれる。
会話に耳を傾けながら、私は時折フォローを入れるのみ。頭の回転の速い彼らのペースで、あっという間に時は過ぎていた…。
* * *
「では、ありがとうございました」
「こちらこそ。今後ともお願いいたします」
談話も終わって、立ち上がった社長2人が握手を交わす。その傍らで、私と先方の秘書さんは小さく会釈した。
本日の話はあくまで大まかなものであり、今後は社内のチームが仕切っていく。それは先方もまた同じこと。
「高瀬川社長、よろしければ食事でも如何ですか?」
だが、しかし。プレジデント・スイートをあとにする前に、専務から食事の誘いを受けた。
断る訳がないと、にこやかに了承する社長。かくして私も必然的に、お相伴に預かることとなった。