みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


その後――秘書さんの一声から始まった、ランチの準備は素早いものだった。


てっきりホテル内で食事をすると思っていたのに、そこはセレブ。


まさかの移動不要とは、ここでも自分のスケールの狭さをまた教えられた。


そんな私をよそに、あっという間にテーブルスペースが様変わりしていく。


スイートへやって来たシェフとウエイター、さらにソムリエさんはすべて男性だ。



「どうした?間宮さん」

「いえ、お気遣いありがとうございます」

そんな隙を狙ってなのか。隣に立っていた嘘っぱちな笑顔で尋ねるオトコ。


――鼻で笑うところがまた失礼だ。ヒトの緊張を分かってて聞いてくるのだから。


正直に言えば、こんなに堅苦しいランチは数えるほどしかないが、これは仕事。


微笑を浮かべつつ、暫しのセッティング・タイムを待つ。


そして白いテーブルクロス掛けから始まり、4席設けられた席には社長と隣り合う。


席に着いた私の前方には秘書さん、そして社長の向かいには専務の位置関係だ。


元々1泊する私たちには、ソムリエによって、フランス産の甘口の白ワインがグラスへ注がれた。



「私はこの後、運転の予定があるので」

そう言って、手で制したのは専務だった。そこで彼には、ノンアルコールのワインがグラスに注がれる。


4人がグラスを掲げたところで、穏やかな乾杯の声がランチのスタートを告げた。


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