みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
逢瀬、紛らす。
これでもか、と何人ものエステティシャンのお姉さま方の手で磨かれて。
見事な連係プレーで、すっぴん状態からメイクとヘアも次いで施された。
ヘアは毛先がくるんと揺れる、ハーフアップの巻き髪。素晴らしく艶々な肌は、パーリィ感が際立つ仕上がりだ。
メイクさんいわく目元がベージュ系のため、リップは派でるように赤リップを塗ったとか。
かれこれ2時間が過ぎた頃――スイートルームにある全身鏡を、呆然と見ている私がいた。
「……そっか、化け猫か」
「よく言うね」
「しゃ、ちょっ!」
ミラーの片隅に映ったオトコの姿に狼狽して、弾かれたように振り返る。
既に所用から戻っていた社長はタキシード姿。対峙する私との距離を、そこで僅かに詰めた。
薄墨色の瞳が上から徐々に下りていく。品定めされる私の視線は、ドキドキと逸る鼓動が中空を彷徨せていた。
「なに慌ててんの?」
「いえ、」
彼がもう一歩踏み込んだ、その刹那。遠慮なしで伸びてきた手に、腰元を引き寄せられる。
「ずっと見たかった――最高だ」
「っ、」
平常心が薄れかけた自身を牽制するように、目の前の彼の胸へ両手を置くしかない。