みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
とはいえ、ホルターネックのドレスの胸元は、悩ましい谷間が主張している。女性からしても羨ましく映る代物だ。
何となくチラリ、と自身の胸に視線が向かったのは悲しい性からなのか?
「朱祢は形ウリでしょ?」
「……余計なお世話でございます」
「よく知ってるからね」
またひと言、無用な発言を受ける羽目となった。……これでも標準よりは大きいんだよ。
「まあ、奥さんとはここで出会ったらしいよ」
「では、今日はご夫妻の記念日ですね?」
今度こそ淡々と聞き返した私は、飄々としている隣へと視線を戻す。
「ご名答――当時のパーティー名目を結婚後に変えたらしい。
あの涼雅さんが今や、奥さんひと筋。いや、振り回されてるとはね」
そう言って、社長がくつくつ喉を鳴らして笑った。彼の言葉に頷いた私は、前方を見つめ直した。
遠目から見ても、英夫妻の仲睦まじさは伝わってくる。喧嘩するほど仲が良い、というよりあれは社長のベタ惚れでしょう?
モデル系や美人が相手だとばかり思っていたけど、ほんわか癒し系がタイプだったのか。……意外なところも、また高感度アップだ。
「高階専務や英社長はとてもお幸せですね」
「確かにね」
またもや嫌味が伝わらなかった――アナタこそ見習ったらどうだ、と言ったのに。
この舌打ちしたい気分を宥める外なく、無駄なストレスが増えただけだった。
「悪いけど、この辺りで待っててくれ。
俺は少し挨拶回りをしてくるから」
「かしこまりました」
秘書の顔で頷いて見せると、腰に添えられていた手が外れた。
人混みの中へ向かうその背中を見送る。そして私は、ボーイさんにシャンパンを貰ってから隅へ移動した。
ツヤツヤな乳白色の壁に凭れれば、ひやりと冷たい背中。この存在を打ち消す場として最適だ。