みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
私の遙か前方では、いかにも恰幅の良い男性と談笑している社長を捉えた。
さらにはその回りを囲むようにして、華やかなドレスに身を包んだ数人の女性の姿まで。
そんな彼女たちの熱い眼差しはオジさまではなく、ただ一点へと注がれている。
従順なレディに見えるから面白い。やっぱり私、お相手役の必要なかったよね?
暫くして社長は、会話を終えた男性と別れた。そこへすかさず、ひとりの美女が彼と対峙する。
――いわゆる取り巻きの中でも、際立てて美人。簡単に言えば、お色気たっぷり。
というか私に”形重視”とか言っておきながら、見事な巨乳さんですけど?
さすがに賑やかな室内ゆえ、この位置では2人の会話が聞こえない。
だだし、フェロモンたっぷりの女性に、嘘っぱちの笑みを浮かべている社長。
彼女の腰を引き寄せた、その顔つきで分かる。……お相手のひとりだと。
するとその女性は、社長に軽くキスをした。いつしか周囲の視線も英夫妻から、同様に目立つ彼らへと変わっている。
さっきのアレは挨拶代わりなのか、はたまた誘いの合図かは分かりかねるけど。
「……、」
チクン、と胸に痛みを覚えたのは気のせいだ。漏れ出た溜め息を隠すように、手にするシャンパン・グラスを傾ける。
気泡が抜けかけた酒は、すこぶる不味い。徳島の芋焼酎が恋しくて堪らないわ。
黄金色の液体を飲み干したその時、不覚にも遠くの社長と目が合ってしまった。
壁の絵と等しい私は、グッと息を呑む。穏やかな笑みをプラスしたのは、秘書として合格点だろう。
「間宮さん」
「……え?」
薄墨色の瞳が自然に逸れてすぐの呼びかけに、気の抜けた声が漏れてしまう。
視線を向けたその先で、私は思いもよらない人物と対峙することになった。