みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
それでも出来ることは、ただひとつ。どうにも出来ぬ後悔は切り捨て、この現実と向き合うことが私の役目。
「この世界なんて、所詮イミテーションだ」
すると里村社長はそう言って、私の隣に歩み寄ると壁にその背をつけた。
壁の絵になるには華やかすぎる存在ゆえ、違和感ありすぎる。壁に掛けられた絵画もびっくりだ。
「ふふ、社長が仰いますか?」
「煩わしい世界も、割と嫌いじゃないからね」
小さく笑ったところ射抜くような眼を向けられ、降参するように小さく頷いてみせた。
「まあ、密かに待ってたんだけどね――間宮さんとの討論を」
そのタイミングで掛けられた言葉に、サーッと血の気が引く。……社長とのいざこざで、すっかり忘れていた。
たとえ義理でもお礼の連絡をすべきだったのに。大人のマナーとしては最低すぎる。
焦りが表情に表れていたのだろう。伸びて来た手が、私の肩をグッと引き寄せた。
「別に良いよ、ここで会えたからね」
「あ、ありがたいお言葉に感謝いたします」
「申し訳ないと思ってる?」
「ええ、もちろんでございます」
「ほんと?」と窘められるようなお尋ねには、どうにか秘書スマイルを返した。
だけど視線が明後日の方を向いてしまうのは、100億円の契約が脳裏を過ぎったため。……やっぱり打算的だな、私って。