みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
両者の出身校を知っているゆえ、里村社長は学生時代の先輩ではない。…ならばきっとプライベート――悪友に近いものだろうと推察する。
それにしても…、歯が立たない社長の姿はじつに愉快だ。まるで不憫な私の敵討ちをして下さったように映る、とは口が裂けても言えない秘密事項だけどね。
「ところでキミは」
対峙していた2人の男性たちの動向を窺っていた刹那、ふと真っ黒な強い眼差しをコチラへ向けられる。
「あ、」
「――彼女は私の第2秘書の間宮です」
デスクワークが常である私がヘマをすると思ったのであろう。間髪入れずにバリトンの声音が響き、思わず高瀬川社長を見てしまった。
「オマエに聞いてないよ。間宮さん、よろしくね」
「あ、恐れ入ります。どうぞお願い申し上げます」
名刺を出す間もなく差し出された大きな手に、戸惑いながらも触れて握手をかわす。
キュッと握られたその感触が鼓動を早めつつも、なぜだか不思議と安心感を覚えさせた。
「そろそろ始めましょうか」
「ああ。どうぞ席について」
「はい、失礼いたします」
また横槍を入れるかのような一言でハッと我に返れば、空気は一変して本題へと移ることになる。
「じゃあ先ず、Chain社さんの意向をお伺いしたい」
「では、僭越ながら――今回のプロジェクトにあたり…、」
爽やかな笑顔を振りまく男の傍らで、ぎこちない笑みにならぬよう穏やかに過ごそうと決めた。