みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
里村氏の横顔は自信に満ち溢れているが、対する社長といえば変わらず飄々としている。
そんな本質の掴めない双方の女性遍歴は、ほぼすべてがお遊び感覚であることは事実。
かの女性群を不憫に思いながらも、分かっていてそこへ足を踏み入れる自分を自嘲していた……。
「惚れた?」
「それをお答えする義務はないかと存じますが」
掛けられたその声に、私は顔を見ることなく淡々と答える。
「素は見せてないよね?」
ゆっくり対峙すれば、嫌みなほど笑んでいる社長と目が合う。その視線は私の中でまた嫌悪感が増すもの。
「公式の場ですので」
だからなのか、明らかなほど苛立ち混じりの声が出てしまった。
「珍しいね。邪魔されて機嫌悪いわけ?」
「大変失礼しました。その、」
「――朱祢」
慌てて陳腐な言い訳を紡ごうとすれば、その呼び声にあっけなく制される。
間髪入れず、腰元をグッと引き寄せられた。そして密着すれば、男らしい爽やかな香りが掠めていく。
「何があろうが、忘れたとは言わせない」
「ええ、…もちろんでございます」
耳元でそっと囁き、わざと念押す社長が恨めしい。それでも睨みつけながらコクンと頷く外ない。