みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


里村氏の横顔は自信に満ち溢れているが、対する社長といえば変わらず飄々としている。


そんな本質の掴めない双方の女性遍歴は、ほぼすべてがお遊び感覚であることは事実。


かの女性群を不憫に思いながらも、分かっていてそこへ足を踏み入れる自分を自嘲していた……。



「惚れた?」

「それをお答えする義務はないかと存じますが」

掛けられたその声に、私は顔を見ることなく淡々と答える。


「素は見せてないよね?」

ゆっくり対峙すれば、嫌みなほど笑んでいる社長と目が合う。その視線は私の中でまた嫌悪感が増すもの。


「公式の場ですので」

だからなのか、明らかなほど苛立ち混じりの声が出てしまった。


「珍しいね。邪魔されて機嫌悪いわけ?」

「大変失礼しました。その、」

「――朱祢」

慌てて陳腐な言い訳を紡ごうとすれば、その呼び声にあっけなく制される。


間髪入れず、腰元をグッと引き寄せられた。そして密着すれば、男らしい爽やかな香りが掠めていく。



「何があろうが、忘れたとは言わせない」

「ええ、…もちろんでございます」

耳元でそっと囁き、わざと念押す社長が恨めしい。それでも睨みつけながらコクンと頷く外ない。


< 90 / 255 >

この作品をシェア

pagetop