みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
逢瀬、交える。
ダンスを終えて会場を出たのは、それからすぐのこと。周囲の視線をひしひし感じながらも、社長は悠然と会釈を交わしていた。
もちろん隣を歩く私も仕事と割り切って、偽りの笑みを貼りつけていたけど。
そのまま肩を抱かれ乗り込んだ車内ではそれも取り去り、無言を貫いてしまう。
外はすっかり薄闇と化した夜空。それはどことなく、私の心模様を表していた。
「まだ怒ってんの?」
「怒っておりません」
「それを世間では怒ってるって言うでしょ」
「それは初耳ですね」
「ああ、もうすぐ生理か」
「…あいにく私は、苛立つより食欲に走るタイプです」
「朱祢の場合、食欲と性欲の同時進行タイプだよ」
「いいえ、性欲より睡眠欲が勝りますので」
もはやセクハラとも取れるような発言には、窓の向こうの景色を見ながら返す。
ちなみにそれは事実――生理前後には決まって、コンビニ・スイーツを朝晩食べているし、眠気も途端に増すから。
「くっく、やっぱり型に填まんないね」
「ええ、そうですね。――人は人、私は私ですから」
里村社長の次にターゲットにされたのか、彼はクダラナイやり取りも楽しんでいるらしい。
ただ隣で喉を鳴らして笑うその声には、さすがに疲弊した私の腹も立ってくる。
しかし、今もなお森の中を切り裂くように走る景色を見ている私は弱い人間だ。
私は私と強く主張したいのに……、結局はこの格好では彼の瞳を見て言えなかった。