LOVELY☆ドロップ
そういうことで、ぼくとしてはもう少し早く着きたいところなんだが、世の中はなかなかうまくいかない。
塞がった車道を見るのにうんざりしたぼくは、ふと後ろにいる彼女が気になった。
ルームミラー越しから様子を覗き見る。
彼女はまるで、この世界のすべてを拒絶するかのように目をつむり、ただ沈黙を守っていた。
その光景を見た瞬間、ぼくの中からでてくるのは『彼女を守ってやりたい』と思う気持ちだった。
守るとはいったい何から?
警官か?
それはごめんだ。
まったくぼくはいったい、いつからこんなに『お人よし』になったのだろう。
自分でも呆れてしまう。
だって、ぼくにはすでに守らなければならない小さな命がある。
もしかすると、彼女は小さな命を傷つける敵になるかもしれないんだ。
ぼくの視線を後ろにいる彼女から助手席で足をぶらつかせている無邪気な祈へと移す。
大人な美樹ちゃんと無邪気な子供の祈、どちらを守らなければいけないのかは一目瞭然(イチモクリョウゼン)だ。
やはり、彼女とは一緒にはいられない。
ぼくが決断すると同時に、交差点の信号が青になった。
左足をクラッチから離し、ゆっくりアクセルを踏んで車を進めたその時――。
「ここでいいです」
今まで閉ざしていた目を開け、美樹ちゃんはそう告げた。
突然命じられた言葉に反応したぼくは、ウィンカーの音を聞きながらタイミング良く車のハンドルを切り、慌てて歩道側へと車を寄せた。