LOVELY☆ドロップ

「アイオンプロダクション?」

手渡した派遣会社の名刺を読み上げる美樹ちゃんに、ぼくはひとつうなずいて、会社の説明を簡単にする。


「そこね、ぼくが契約しているフリーカメラマンの派遣会社で、社長がぼくの知り合いなんだ」

「パパね、おはなとかだけじゃなくって、おんなのひとも、『さつえい』するんだよ?」

祈はぼくのことを自分の成果のようにして自慢げに話している。

そんな祈に、美樹ちゃんは、うんうんと何度もうなずき、真剣に聞いていた。

彼女は子供が話す内容もバカにせず、対等になって聞いてくれる。


その姿勢は、いつしか大人が忘れ去っていってしまうもので、子供が話す内容は常に空想と嘘偽りが多いという勝手な考えを正させてくれるものだった。

本当は、子供こそが率直な意見や誤魔化しなどが一切ない、澄んだ眼差しで告げる真実だということを教えてくれる。


ぼくの亡くなった妻の沙良(サラ)だってきっと、今の美樹ちゃんと同じように子供の意見を真剣に聞くに違いない。


子供も生んでいないのに、それができる美樹ちゃんにはほとほと頭が上がらない。



そうやって祈と美樹ちゃんのやり取りを傍から見ていると、とても微笑ましい。

本当の親子のようにも見える。




そう思い、ぼくはふと思い止まる。


自分の感情に戸惑った。



いったいぼくは何を考えていただろうか。


今さっき、ぼくの頭に美樹ちゃんと家庭を持つという愚かな考えが過ぎらなかっただろうか?


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